書体の表情 4:おおらかさの中に風格が漂う=筑紫B見出ミン-E

TYPOGRAPHY SERIES 2

書体の表情 4 おおらかさの中に風格が漂う=筑紫B見出ミン-E

書体の性格■各論編 ❹ 筑紫B見出ミン-E

おおらかさの中に風格が漂う=筑紫B見出ミン-E

前回は、フォントワークスの「セザンヌ」を紹介しました。思いがげず多くのアクセスをいただきました。それだけ潜在的なファンが多い書体だということなんでしょうか。

さて、今回は同じフォントワークスの明朝体「筑紫B見出ミン-E」を取り上げます。

いま、フォント業界の中で一番元気で精力的に活動されているといっていい藤田重信氏の作品。他にもたくさんある氏の作品の中で、特に私が気に入っている書体です。なぜなら、この書体には藤田氏の原点が詰まっているように感じられるからです。
とにかく文句なしに凄い書体だなぁと思います。

●書体名・ウェイト名:筑紫B見出しミン Std E ●販売フォントベンダ:フォントワークス ●書体の作者:藤田重信アイコンの見かた書体の表情・書体の用途

メーカー・開発者の説明

伝統や情緒を程良く感じさせ、活字的な味わいと現代的な新しさを融合させた見出し用明朝体です。
仮名は草書・行書風で《流麗な筆運びのテイストを残し古風な味わい》を表現します。
※AとBとCの漢字は、共通のデザインの文字を使用
※AとBの英数字は、共通のデザインを使用

フォントワークス書体見本」より引用

筑紫B見出ミン-E組み見本

書体の私見・感想

●時代が藤田重信を求めるのか、藤田重信が時代を作っているのか…

この人を天才と呼ぶか、鬼才と呼ぶか判断に迷いますが、いずれにしても凄い人には違いありません。いま、フォントワークスはこの人を中心に回っているといっても過言でないでしょう。その人の名は「藤田重信」。

筑紫B見出ミン-E は、この藤田氏の作品です。話題の筑紫アンティーク明朝や筑紫ヴィンテージ明朝など筑紫シリーズの初期の書体です。筑紫A見出ミン-E、筑紫C見出ミン-Eもありますが、こちらはかなにクセがある書体。漢字は共通です。このクセがたまらないという人も多いのですが、私には少し刺激が強すぎて…。ですので、正統派の筑紫B見出ミン-E オンリーです。

藤田氏の個性がふんだんに盛り込まれているにもかかわらず、王道の明朝の風格があります。天才の仕事とはこういうものなんだなとつくづく思い知らされる、同じ書体デザイナーとして嫉妬にも似た、憎たらしい、でも大好きな書体です。

2016年6月13日、NHK テレビ「プロフェッショナル 仕事の流儀」に出演されていましたね。字游工房の鳥海修氏との作品批評のやりとりは面白かった。タイプの違う天才同士の「罵りあい」はうらやましいとすら思いました。

●この書体には抜群の説得力が…用途は幅広い

この書体の圧巻は、やはり両仮名。毛筆の美しさを極限まで昇華させると、こんな書体になるのかなと思います。
正統派の漢字によく似合う素晴らしい仕上がり。説得力を表現したい作品にはぴったりの書体です。圧倒的存在感で、説き伏せる(少し語弊があるかな)強い力を持っています。

また、比較的軟らかい内容のものにも、不思議とよく合う、それこそ不思議な書体です。私は、さまざまな場面で、この書体を多用しています。

●詰め情報に少し難が。伝統的書体にはありがちなこと

ただ、詰め情報が「う~ん」と思います。両かなの詰まり具合がシビア過ぎるのです。したがって、広めの漢字のサイドベアリング(文字間)とのバランスが悪く、漢字が空きすぎて見えてしまいます。なぜそうなるのか、それは、漢字の「伸びやかさ」にあります。

両はらいに代表されるすらっとした伸びやかなフォルムを「稼ぐ」ために、字面が小さめにできており、その分サイドベアリングが広くなります。フォントは基本的に詰め情報がある書体でも、漢字には詰めを適用しません。なぜなら文字数が多すぎるからです。


少し空き気味に見える漢字に対して、シビア過ぎるかな詰めの対比が極端なので、詰め組みのバランスが崩れるのです。かなの詰め具合はもう少し甘めでもよかったと、私は個人的に思っています。この書体は、自動(メトリクス)より、オプティカルのほうが自然に詰まる場合があります。

●フォントワークスの積極的試み、ペア・カーニング

それでも、ペア・カーニングを多数取り入れるなど、フォントワークスの、フォントに対する真摯な姿勢には頭が下がります。ペア・カーニングとは、欧文書体に取り入れられている、特定の文字どうしが隣り合わせになったとき、本来の文字送りより詰めるプログラム技法のことをいいます。(OpenType に備わる機能)

詳細は関連記事 “タイポグラフィ7つのルール その❷ 和文の美しさのカギは「つめる」こと” の “2.3.2 ●特定の文字同士が並んだときの特例文字間「ペアカーニング」” figure2-21 で説明しています。これをフォントワークスは両かなに適用しています。リンクを張ってあります。確認してみてください。

図の中の「ラグジュアリー〜」の文章に「筑紫B見出ミン-E」、「一流宝飾〜」の文章に同じフォントワークスの「セザンヌ」を使用して説明しています。すべての文字でペア・カーニングが設定されているわけではありませんが、それでもこの試みは画期的なものなのです。

モリサワの圧倒的なシェアも、この会社に脅かされる時代が遠からず、くるかも知れません。私がいま、もっとも注目するフォントベンダーです。

あとがき

twitter を日々確認するのが日課になっています。藤田氏はほぼ毎日制作している状況をツイートされています。本当に精力的で文字に対する情熱が熱い人だな、と思います。私などはとても足元にも及ばないなと敬服してしまいます。私も、新しい書体に取りかからなくては、と真剣に思わせてくれる「師匠」とも呼ぶべき人です。お会いしたことはありませんが…。

さて、次回は、藤田氏と同様、日本のフォント業界を常に牽引してきたといって過言ではない、字游工房・鳥海 修氏の制作・ディレクションした「游ゴシック体」を紹介します。

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