▼第1回(通算第12回)
前章 “タイポグラフィ7つのルール その❸ 息苦しいデザインの回避法は「あける」こと” では、デザインをする上で、「心地よさ」を演出する重要な要素、「ホワイトスペース」をさまざまな角度から語ってきました。
この章では、タイポグラフィのテクニックの部分に重点を置き、お話ししていきます。キーワードは「メリハリ」です。
デザインにはメリハリが絶対的に必要です。「メリハリ」は、漢字で書くと「減り張り」となり、強弱・緩急・伸縮・抑揚などの意味があります。デザインに限らず、価値を高めたり、物事を円滑に進めていくための生活の法則と呼んでもいいかもしれません。
メリハリは、「メリカリ」が転じた言葉。もともとは邦楽用語のひとつで、低い音を「減り(めり)」、高い音を「上り・甲(かり)」と呼んでいました。
「減り」は「減り込む」など、一般的に使われていましたが、「上り・甲」は邦楽用語の域を出なかったため、一般的には意味が近い「張り」が使われるようになったようです。
この章と次の章では、それぞれ、「たす」を「張り」、「ひく」を「減り」になぞらえてお話していきます。この2つは、実際に行おうとすると、かなりの勇気が必要になります。どうか、勇気をふり絞って挑戦してみてください。
第1回:通算第12回 もくじ |
4.1 文字(文字列)サイズを大きくする |
4.2 文字に変形をかける 4.2.1 ●欧文のItalicは単なる「斜体」ではない 4.2.2 ●安易に乱用すべきでない長体・平体 |
4.1 文字(文字列)サイズを大きくする
ここでは “タイポグラフィ7つのルール その❷ 和文の美しさのカギは「つめる」こと” の冒頭で使用した(figure2-1)を再び登場させます。
「未来は君たちのものだ!」これを見出しとしてデザインするとき、あなたはどのように使うでしょうか。
(figure4-1)「左図」は普通にベタ組みで配置したもの。これはこれでアリかも知れませんが、インパクトに欠けますよね。でも、「右図」のように、文字を大きくすると、よりインパクトが増すはずです。これが「張り」です。
わかりやすくするため、下段に、行った手順を大きく載せてみました。
❶は詰め組みをしたもの、これだけ詰まります。その分大きくできます。
❷全体を拡大して、左右を「ベタ組み」のものと合わせました。これだけ大きくすることができました。さらに、「は」と「の」の助詞を小さくして、「未来」と「君たち」を目立たせています。これが「メリハリ」(減り張り)ということです。
4.2 文字に変形をかける
変形には、3種類のバリエーションがあります。すなわち、長体・平体・斜体です。いずれも上手に使うとインパクトは大きなものがあります。しかし、使いかたを間違えると、一気に安っぽいデザインになってしまう、恐ろしいアイテムでもあります。
4.2.1 ●欧文のItalicは単なる「斜体」ではない
結論からいうと、和文で「斜体」を使うときは、ワンポイントにとどめるべきでしょう。つまり、それ以外に用途はないということです。
WordPress テーマの CSS で、要約文や引用文を {font-style:italic;} にしてあるのをよく見かけますが、非常にみっともないので、私は {font-style:normal;} に直しちゃいます。和文の文章に「斜体」は根本的に合わないのです。
なぜ WordPress テーマにイタリックの指示が多いのか。それは WordPress テーマの作者が欧米人が圧倒的に多いことに起因していると思います。
欧文圏では、抜粋文や引用文は「イタリック」にします。これが、とても他と区別しやすく、きれいで見やすいんですね。
欧文の Italic は、単に斜体にしてあるわけではありません。きちんとした法則にのっとって正体(Normal Style)とは別の独立したデザインになっているのです。手間暇かけている、だから美しいんですね。
「G」の左は、Illustratorの機能で斜体にしたもの。右はItalic。斜体をかけると、「左上」と「右下」の線が細くなり、ふところが狭くなる。機械的な計算では、このゆがみの補正は不可能である。
それに対して、デザイナーが一文字ひともじ丹念に描き起こしたItalicは、当然ながらゆがみはなく、自然で美しい。
「イタリック」とは、単に斜体をかけただけのものではないのです。単なる斜体と理解しているのは、日本を含む漢字圏の人たちだけかも知れません。
4.2.2 ●安易に乱用すべきでない長体・平体
さて、長体・平体ですが、これを、横幅や縦幅のスペースが少ないときに使用するもの、というふうに理解していませんか? 確かにそうなんですが、困った状況でもないのに乱用されているように感じます。たとえば、こんなとき、あなたはどうするでしょうか。
手前味噌だが、私の書体「和音」で、組み見本を作ってみた。
2番目の見出しだけ文字が多い。コピーまで依頼された場合は文字数を合わせるので、こんなアンバランスな見出しはあり得ないが、支給された原稿の場合はこれがままある。柔軟な対応が必要である。
上図は、2番目の見出しが他より文字数がかなり多い例ですが、下部にスペースがあるにもかかわらず、見出しに長体をかけて無理に1行に収めています。この場合は下図のようにすべきでしょう。1行に収めなくてはならない理由はないのです。
長体は、縮まるのは左右だけのはずですが、目の錯覚で上下も縮まって見えます。つまり、正体(デフォルトの状態)の文字サイズより小さく見えます。これは、平体にも同じことがいえます。
このように、長体・平体は、どうしようもない場合を除き、安易に使用すべきではありません。デザインの全体の雰囲気を壊すだけでなく、デザインが安っぽく、素人っぽくなります。
「変形」は、明確なデザイン意図に基づいて、効果的に使いましょう。
「長体」の使いかたをいくつか示した。
❶は行長が長い場合の見出し。正体だと大きすぎるが、「長体」にしてトラッキングで広げると、かわいくおしゃれになる。この使用法では長体60〜65%の間で良い効果が得られる。
❷見出しも本文も同率の「長体」にする。この場合は長体80〜85%で良い効果が得られる。行間は広めが合う。
❸縦書きの例。和文はもともと縦書きに適している。ひらがなは縦長の文字種が多いので、「長体」に適応する。特に明朝体は「長体」に向き、和の雰囲気が良くでる。長体95%で最良の効果が得られる。行間は広めが良い。
なお、「平体」はデザインには不向きだと思う。私はほとんど使うことはない。
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次回(第2回:通算第13回)は、フォントの「ウェイト」に重点を置き、「サイズ」との相関関係を明らかにしていきます。予告下ページャ[2]のをクリックを。
第2回:通算第13回 予告 |
4.3 フォントのウェイトを上げる |
4.4 ウェイトとサイズの関係 |
私の書き方が悪かったと思いますが…
基本的にベースラインで揃えられることと字送りピッチとは無関係です…
ともあれ、大き過ぎる仮名、あるいは小さく見える仮名などをベタ組みで使いたい際には、「中央から〜」が必須なのはご理解いただけると思います…これをすることによって「欧文ベースライン」の縛りから解放されますので…
大石さん、ありがとうございます。
まったく、言葉が足りていませんでした。追記、加筆修正しました。
大石さん、いつもありがとうございます。
早速、追記します。
合成フォントは基本的に欧文ベースラインを元に揃えられます
なので、仮名などの比率を変更し字送りピッチを維持したい場合は、
中心から拡大/縮小をチェックする必要があります