▼第4回(通算第21回)
前回は、組版上のルールについてお話ししてきました。和文は厳格な組版ルールがありますが、そのルールがもたらす矛盾点は多くのデザイナーの頭痛の種です。その解決策を探ってきました。
今回は、それを踏まえて、エディトリアルとグラフィックの違いや、英文混在文章・英文単独文章の問題点についてお話しします。
第4回:通算第21回 もくじ |
6.5 エディトリアルとグラフィックの違い 6.5.1 ●詰め組みは見出しだけに適用するものではない |
6.6 状況によって悲惨、英文混在文章組み 6.6.1 ●3種類の、避けられない原因 6.6.2 ●和文と英文では余ったスペース配分に違いが 6.6.3 ●見る人の立場に立って… |
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6.7 英文のみの文章組み 6.7.1 ●均等配置しない例もかなりある |
6.5 エディトリアルとグラフィックの違い
ここまでの説明は、ひとつ、前提にしていたことがあります。なにかおわかりですか? そう、ベタ組みを前提としていました。つまり、この章の冒頭でもお話しした通り、グラフィックよりエディトリアルに重きを置いたお話しでした。
エディトリアル(雑誌類など、文章が主体のもの)では、[トラッキング]処理の「1歯詰め」をすることはあっても、基本的に[メトリクス]、[オプティカル]による「文字詰め」という概念は希薄です。長文の文章はベタ組みが基本であり、何より読みにくいだけの文字詰めは、やるべきではないのです。
でも、そもそもこのブログはグラフィックデザイナーに向けて書き始めたもの。
グラフィックの仕事には長文の文章はほとんど存在しません。パンフレット類のリード文や、短めの文章がある程度だと思います。
では…。
6.5.1 ●詰め組みは見出しだけに適用するものではない
皆さんは、リード文や、短めの文章はどうしますか。やはり「詰め」ますよね。デザイン性を追求した場合は、やはり詰めたほうが断然美しい、私はそう思います。
「文字詰め」は、決して見出しなどの大きい文字だけに適用する技法ではないのです。
ただ、見出しなどのように、シビアに詰める必要はないと思います。[メトリクス]、[オプティカル]どちらかで十分です。でも、ペアカーニングが施されていない書体(和文はほとんどですが)では、前後の関係で広く空いてしまうところが必ずでてきます。手詰めの微調整は必須です。
なお、和文書体でも、独自の詰め情報をもたない書体はたくさんあります。この場合は[オプティカル]を選択することになります。また、縦組みにすると、独自の詰め情報のある・なしにかかわらず、[オプティカル]は効きません。この場合の最後の手段。[文字ツメ]は大丈夫。これに頼りましょう。
6.6 状況によって悲惨、英文混在文章組み
beautiful や congratulations など、1単語なのにすごく長いものが英文にはたくさんあります。これら英文が混在する文章は、[均等配置(最終行左揃え)]にすると、高い確率で、英語の単語と単語の間が広く空いてしまう現象が起きます。(figure6-6)(figure6-16)
これは、英文組版のルールとしてある、単語に[分離禁則]が働くからです。つまり、1単語を2行に分けてはならないということです。これは厳格で、ハイフネーションの指令を掛けない限り2つに割ることはできません。
6.6.1 ●3種類の、避けられない原因
この現象が起きる原因は、3通りあります。(たとえ、[追い込み優先]になっていても「追い出し現象」は起こります)
❶つ目は、その行の行末にくる英文単語が、長すぎて次の行に追い出されてしまう場合。
❷つ目は、行末にくる和文が[行頭禁則文字]を含んでいて、その[行頭禁則文字]が1つ前の文字を道連れに次の行に追い出されてしまう場合。
❸つ目は、行末にくる和文が[行末禁則文字]のとき、その[行末禁則文字]が次の行の先頭に追い出されてしまう場合。
です。
なお、本当は4つ目があります。上記のいずれにも該当しないのに、ごく普通の文字が行末に入らずに次の行に追い出されます。
行長を正確な数値に設定しても、その行に約物や洋数字、英文が入ってくると、当然ぴったりの数値になりません。結果、わずかにスペースが足りないということが起こります。その場合に追い出しが起こり、文字間が広くなります。この「4つ目」の現象は、ほとんどすべての行が、該当する可能性があります。
左図は[段落][文字組み]を、デフォルトの[行末約物半角]で組んだもの。原文は和数字を使用しているが、見本にならないので、洋数字に変えた。3種類の「できごと」のせいで、文字間が空いてしまった例を示している。
3行目の行末には、4行目行頭の「入」まで入るが、次の「っ」が[行頭禁則文字]のため、「入」が道連れで4行目に追い出された。
4・5行目は、いずれも行末に長い英単語[分離禁止]がきたため、英単語が5・6行目にそれぞれ押し出された。
6行目の行末には【 「 】まで入るが、【 「 】が[行末禁止文字]のため、7行目の行頭に押し出された。
7行目。行末には「云」まで入るが、次の「っ」が[行頭禁則文字]のため、「云」が道連れで8行目に追い出された。
右図は、修正を加えて不自然な文字間のアキをなくした。
上記の3つが原因で、かなりの文字が当然のことながら次の行に追い出されるので、その前の行は文字数が足りず、その空間分のスペースが均等に割り振られます。
6.6.2 ●和文と英文では余ったスペース配分に違いが
この場合、英文は[分離禁則]があるため文字間には割り振られず、単語間のスペースにまとめて振り分けられます。ですから、単語間スペースが1つしかないときは、そこにすべてのスペースが入り込み、悲惨な姿になります。
一方、和文は一部条件を除いて[分離禁止]は適用されないので、一文字ずつ割られます。(これも大変カッコ悪い!)
近年すごい勢いで普及してきている、電子書籍をご覧になったかたは多いのでは?
電子書籍は、使用する端末の条件や、見る人の文字サイズの好みで設定が変わるので、横幅(width)を固定できません。言葉は悪いですが、文章を流しっぱなしの設定しかできません。ですので、英文が入っていると、上記の現象のオンパレードとなります。
6.6.3 ●見る人の立場に立って…
さて戻りましょう。この事態をどうするか?
ひたすら、手動で詰めたり、広げたりしながら調整するしかありません。どうしようもないときはハイフネーションに頼ることになりますが、英文の分量が多い場合は、行末がハイフンだらけになる危険性もあり、あまりおすすめできません。
グラフィックデザインの場合は、そんなに行数が多いものはないので、手動で何とか乗り切りましょう。
6.7 英文のみの文章組み
英文のみの文章組みは、和文と比べて、非常に簡単明瞭です。和文のように[行頭禁止文字]や[行末禁止文字]があるわけでなく、[分離禁則]があるだけです。
ただ、[均等配置(最終行左揃え)]にすると、前項で説明した事態が頻発します。これは、[分離禁則]が働く限りどうしようもないことです。
6.7.1 ●均等配置しない例もかなりある
ですので、海外の雑誌や新聞などは、単純な[行頭揃え(左揃え)]で組版している例がかなりあります。単語間のスペースが不揃いになるより、段の右側が不揃いになるほうがベターだと判断した結果でしょう。でも、これはこれで違和感なく読めてしまうのが、英文の良いところかも知れません。
和文の文章組みでは、この[行頭揃え(左揃え)]は、まず見ません。和文は、[行頭揃え(左揃え)]では可読性が著しく損なわれてしまうだけでなく、制作したデザイナーの力量や常識を疑われる結果となります。
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次回(第5回:通算第22回)は、主に、縦組み上の問題点について語っていきます。
第5回:通算第22回 予告 |
6.8 縦組みの際の洋数字・英文の扱い |
6.9 見えない升目が和文の美しさの根源 |
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