書体の表情 5:どのウェイトのどの文字種もほぼ完璧=游ゴシック体

TYPOGRAPHY SERIES 2

書体の表情 5 どのウェイトのどの文字種もほぼ完璧=游ゴシック体

書体の性格■各論編 ❺ 游ゴシック体

どのウェイトのどの文字種もほぼ完璧=游ゴシック体

前回は、フォントワークスの「筑紫B見出ミン-E」を紹介しました。立て続けに2回フォントワークスの書体に触れたのは、フォントベンダーとして注目しないわけにいかないからです。そしてこれから紹介する字游工房も同じ。書体デザイン(設計)の巨匠をともにひとりずつ抱えているからです。

フォント業界の両雄といって差し支えないと思うフォントワークスの藤田重信氏と、これから紹介する字游工房の鳥海 修氏。このお二人の作品は群を抜いています。

今回は、今後ますます輝きを増していくであろう、その鳥海 修氏擁する「字游工房」の書体、「游ゴシック体」をお送りします。

●書体名・ウェイト名:游ゴシック体 L, R, M, D, B, E, H ●販売フォントベンダ:字游工房 ●書体の作者:鳥海 修アイコンの見かた書体の表情・書体の用途

メーカー・開発者の説明

游ゴシック体ファミリーは、游明朝体と一緒に使うことを想定して開発された、スタンダードな角ゴシック体ファミリーです。 ややフトコロがせまい漢字と、伝統的なスタイルを持ったすこし小さな仮名の組み合わせが、このファミリーの大きな特徴です。

JIYUKOBO」より引用

游ゴシック体組み見本

書体の私見・感想

●ゴシック体の頂点といって差し支えないほどよくできている

この書体は、現在、日本に存在するあらゆるゴシック体の頂点であると私は思っています。L、R、M、D、B、E、Hウェイトの7種類がありますが、いずれのウェイトのいずれの文字種もほぼ完璧な字形をしており、崩れがありません。「伝統的」書体でありながらクセが少なく、あらゆる場面に適応できる汎用性をもっています。

本文組みだけでなく、L、Rウェイトの細い書体は、見出しに使用しても見事な演出効果を醸し出します。形状がしっかりしているからこそ、大きな効果が得られるのです。

●写研の「石井ゴシック」と、なんら遜色のない美しい文字形状

形状は、写研の「石井ゴシック」の流れを汲んでいると思いますが、かなのデザインを実際に担当した、天才・鳥海 修氏のこだわりが詰まった、まさに彼のオリジナル書体です。鳥海氏は、この書体の総合的なディレクションをし、素晴らしい書体に仕上げています。

小さめの字面に、ふところのやや狭い、毛筆体に近い「伝統的」書体の基本形をしています。ゴシック体と毛筆体は、根本的にフォルムが違いますが、それでも、毛筆体の勢いと気品を感じさせる雰囲気を持っています。

写研の「石井ゴシック」はこのような書体でしたが、写研の書体が使えない現状の中で、「石井ゴシック」と比べても遜色のないこの「游ゴシック体」は、本当にありがたい、手を合わせたくなるような書体です。

●従属欧文・数字もとても素晴らしい

一般的に、和文の従属(組み込み)欧文は「ちょっとなぁ」というものが多い中、游ゴシック体は欧文・数字とも、とてもスマート。実によくできています。

特に数字は全角・半角ともに「実質的な半角数字(等幅半角数字)」に近い形状をしているので組んだときの違和感がありません。「1」は下部にセリフがある特殊な形状をしています。私はこの形があまり好きではないのですが、可読性という面ではいいのかなとも思います。

例えば、名刺などの小さい印刷物では、一般的な「1」よりはるかに判読しやすい利点があります。事実、他の書体で組むよりとても美しく読みやすい。游ゴシック体は小さいQ数(サイズ)で特に威力を発揮します。

●Webには、必ずしも向いているとはいえない

Widows は、バージョン8.1から、また、Mac は OS X Mavericks から「游ゴシック体」を標準フォントに指定しました。これは、画期的なこと。Web サイトで「游ゴシック体」を指定すれば、双方で同じ書体を表示できるわけです。

これで、一気に「游ゴシック体」を使用したサイトが増えましたね。ただ、私の印象。細すぎるな、特に Widows は。批判を浴びるのを承知の上でいいますが、私は、Web サイトには「游ゴシック体」は必ずしも向かない気がしています。「伝統的」書体の一番大きな特徴、「字面が小さい、それに伴うサイドベアリング(文字間)が広い」ことが、その原因です。

「伝統的」書体は、縦組みには抜群の可読性を発揮しますが、横組みにすると、サイドベアリングの広さから、必要以上に文字間が空いて見え、文章が連続性を持ちません。それゆえ、横組みの代表格ともいえる Web ページには向かないのです。
タイポグラフィ7つのルール その❶ 美しさの基本は「そろえる」にある” の中の “1.6.4 ●和文は、縦組み用にできている” figure1-10 を見ていただくと納得していただけると思います。

そして、その細さも問題なのかも知れません。フォントウェイトに基準はないので、一概には論じられないのですが、「游ゴシック体」は、それぞれのウェイトが、他の書体より1ランクから2ランク細いのです。だから、紙ベースで仕事をしていても、何の気なく「游ゴシック体」を指定すると「ん?」というときがしばしば。たとえば「R」を指定しても、一般的概念の「L」なんですね。わかっていても「ん?」となってしまいます。

そんな、細さが、一般的な Web サイトの、ヒラギノやメイリオの太さに慣れている目には「細い」と感じるのは無理からぬことかも知れません。

●作者の開発ノートを見るのが一番!

この書体は、細部にわたってこだわり抜いたコンセプトででき上がっています。私の「くどくど説明」を読むより、作者の開発ノートを覗いて見ることをおすすめします。とてもわかりやすく解説されています。書体の勉強にもなりますよ。

 游ゴシック体開発ノート http://www.jiyu-kobo.co.jp/ygf-notes/

あとがき

もう15年以上前になるでしょうか、私のデザインした「松葉」の印象を聞きにプログラマーの息子と二人で、大胆不敵にも字游工房を訪れ、鳥海氏と面談させていただいたことがあります。どこの馬の骨とも知らない親子を暖かく迎えてくださり、話を真剣に聞いてくださいました。

穏やかで、物腰の柔らかい紳士でした。すでに数々の実績を残されているにもかかわらず、本当に謙虚なかたで、その人柄に敬服したのを、昨日のことのように覚えています。

先日、SNSで改めてごあいさつさせていただいたところ、このときのことを覚えていてくださいました。書体の印象まで覚えていてくださったのには、正直驚きました。大人物というのはこのようなかたをいうのだなと、痛切に感じました。

さて、次回は、歴史の古いモリサワ初期の書体「A1明朝」を取り上げます。独特の雰囲気をもった、優れた書体です。またご来訪いただくことをお待ちしております。

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